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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁
「近頃は、夜中にようお留守がかさみますが、今頃からいったい、何処へお出ででござりますか」
「御館へじゃ」
元康は、取り合わずに、すぐ起ちかけたが、築山様は、それだけの説明では気がすまないのである。
お館へ伺候するのに、何で夕刻からでなければならないのか。また、いつぞやのように夜半までかかるのか。家臣は誰をつれて行くのか。――際限もなく訊き詰るのであった。
錠口にひかえて、元康の立坐を待っている榊原平七は、家来の身でも、余りなと、焦々思っていたが、元康は根気よく、彼女の不審の解けるまで、宥めたり説いたりして、やがてようやく、
「では、行って来るぞ」
と、奥を出た。
築山様は、元康が、またからだが冷えると悪いと、止めるのもきかず、錠口まで送って出て、
「おはやくお戻り遊ばせ」
と、いった。
彼女の愛と貞節の最大な現われ方は、元康が外出する折にいうその言葉だった。
表の大玄関まで通る間、元康は家臣のどの顔を見ても、黙々と口もきかなかった。――が、もう星の白い夕風の中へ、駒の鬣をそよがせて騎り出すと、彼の気持は一掃され、彼にも青年らしい溌剌とした血液のながれている証拠が、その眉にも、言葉にも見えた。