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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「禅師様にも、松平元康どのにも、またその他の方々も、はや橘の坪におそろいで、お館のお出ましをお待ちかねでございますが」

と、告げて来た。

橘の坪というのは、柑橘の樹の多い南勾配にある別殿で、こよい義元はそこに、臨済寺の禅師を始め、腹心の者を、表向き夜の茶に招くということで、呼んでいたのである。

「お、そうか。……皆そろうてか。儂が主人役、遅れてはなるまい」

父と子との、心を噛むような沈黙の今を――救われたように、義元は云って大廊下を彼方へ歩み去った。

元より茶事というのは表向きだけに過ぎない。義元の同朋、伊丹権阿弥という者が、中門まで手燈を持って出迎えに出ている様など、夜の茶会にふさわしく、灯影のゆらぎ、虫の音など、風流の気につつまれて見えたが、義元が通って、そこが閉まると、一組七名ずつの素槍を引っさげた兵が、絶え間なく、附近を巡って、水も洩らさぬ警戒をしていた。

「お館様」

「――お出ましです」

橘の坪の静かな屋の内に、権阿弥と他一名の同朋の声が、そう警蹕するように奥へ伝えた。

床の低い二十畳ほどの寺院風の一室に、仄かな明りがゆらいでいた。

座には――