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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

――が、見れば、信長自身はまだ鎧も着けず、侍女のさいに鼓を持たせて舞っている様子に、

(おや?)

と、云いたげな、不審の眼を、そこへみはった。

たった今、お表のほうへ、

(御出馬の用意を!)

と伝えて来たのは、取次が小姓の佐脇藤八郎だったし、皆寝不足で疲れているし、神経ばかり尖っている際なので、何かの間違いではなかったのか? ――と、咄嗟に長門は、自分の早支度と、信長の悠長なすがたとに、戸まどいを覚えた程だった。

いつもは、

(馬ッ)

と、信長がいったら、もう近習の支度が間にあわない間に、飛び出している信長なので、長門はなおさら、意外に思ったのであった。

「はいれ」

信長は、舞の手を、休めはしたが、舞のすがたは崩さずに云った。

「――長門。そちは果報者じゃ。信長がこの世の名残と舞う舞を、そちのみが見得るぞ。それにて見物候え」

(さてはやはり)

長門は、主君の心を悟ると、自分の抱いた疑いを恥じながら、広間の端へにじり入って、

「御譜代、家の子も数ある中に、長門一名のみが、殿の御一世の舞を拝見いたすなどは、御家臣の端と生れて、身にあまる果報。願わくば、長門にも、この世の名残に、謡わせていただきとう存じまする」