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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「うむ。そちが謡うか。――よかろう。さい、初めから」

「…………」

さいは黙って、鼓と一緒にすこし頭を下げた。長門は、信長が舞うといえば、いつもの敦盛と心得ているので、

人間五十年

化転のうちを較ぶれば

夢まぼろしの如くなり

ひと度、生をうけて

滅せぬもののあるべきか

謡っている間に、長門は、信長の幼少の時のお姿から、自分が側近く仕えて来た長年のことなどが、胸のうちに、長い絵巻を繰るように思い出されて来た。

舞う人、謡う人の心と一つになって、鼓を打っていたさい女の白い面にも、涙のすじが燭に光って見えた。しかし、さい女の鼓の音は常よりも冴えて、何か烈しくさえあった。

――花の袂を墨ぞめの

十市の里は墨衣

今着てみるぞ由もなき

信長は、扇を投げて、

「死のうは一定!」

云いながら、手ばやく、鎧を着け、具足をまとい、

「さい。信長が討死と聞えたなれば、すぐこの城に火を放けよ。見穢のう焼け残すなよ」

「畏まりました」

さい女は、鼓を置いて、両手をついたまま、面を上げなかった。

「長門。――貝ッ」

「はッ」

長門は、先へ、大廊下を駈け出して行った。

信長は、可憐しい女童どもの住む奥へ向い、また、この城にある祖先の霊へ対い、心の底から、