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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「むウ、むウ……」

涙もろい藤吉郎は、もう瞼を熱くしているのだ。今日の合戦こそ、織田の玉砕であり、全軍一致の戦いと分っていながら、旧主を慕ってこれへ来た友の気もちが、彼には堪らなくうれしいのであり、そしてともすれば瞼の熱くなるわけであった。

「いや、よく分った。それでこそ前田犬千代。殿は今、この上で今朝初めての御休息、今のうちだ、早く来い」

「待ってくれ、木下。――だが俺は、御前へは、出ないつもりだ」

「なぜ」

「この際だから、一兵でもと、御勘気をゆるして下さろうなどというつもりではないが、そんなつもりで来たかと、側臣に見られるのが嫌だ」

「何をばかな。皆死ぬのだ。おぬしも、御馬前で死ぬ気で来たのではないか」

「そうだ」

「しからば、何の斟酌もいるまい。人の思わく、世の口の端などは、生きている上のことだ」

「いや、黙って死ねばいいと思う。それで俺は本望だ。――殿がゆるして下さるも下さらぬもない」

「それもそうか」

「木下」

「む」

「しばらく、おぬしの陣場へ、潜ましておいてくれ」

「関わぬが、俺の組は、足軽隊の中の三十人組。その武者振りでは目立つな」

「こうしていよう」

そこらに落ちていた馬の腹帯らしい古布を、犬千代は頭からかぶって、足軽たちの木下隊へ這いこんでいた。