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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

城下町の堀川添いに、彼は、これから訪れようとする人の閑雅な別業を見て立った。それは以前、小さい寺であったのを、信長の従兄弟因幡守が、別宅に造り直した家だった。

玄関に備えてある撞木をもって訪鐘をつく。取次があらわれる。誘われて通ると、名古屋因幡守は、又右衛門の早速の来訪に、斜めならぬ機げんである。よう来てくれた。ことしも戦乱の中だが、菊も栽った。後で、菊畑へ出て見てもらおう――などと隔意もないもてなしである。

だが、主筋の人なので、

「はい。はい」

と、又右衛門は、席を遠くにし、辞を低くしないわけにはゆかない。

それと、何の御用か? が、胸のどこかで、気がかりを持っている。

「又右。もそッと、寛いだがよい。敷物も取るがよい」

「はい」

「ここからも菊が眺められよう。菊を見るは、花を見るのでなく、丹精をながめるのじゃ。人に見せるは、人に誇るにあらで、歓びを分って、人の歓びを歓ぼうとするのじゃ。こういう好日の下に、菊の香を嗅ぐのも、君恩の一つであるな」

「寔に」

「よい御主君を持ったことを、われわれはこの頃、痛切に思うようになった。桶狭間の折に仰いだ信長様のおすがたは、終生、われらの眼底から消えまいと思う」