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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「大杯は無体じゃ。小さいのにしてくれい。そのかわりに、謡なとうたおう」

「何。うたうか」

返辞のかわりに、藤吉郎はもう膝を鼓に打ちたたいて、謡い出しているのである。

――人間五十年

化転のうちをくらぶれば

ゆめ幻のごとくなり

ひとたび生を得て

滅せぬもののあるべきか

「やい、待て」

犬千代は、謡いかけた藤吉郎の口を抑えて、

「それはお汝が謡ではない筈だぞ。わが君が何ぞというとよくお得意に謡い遊ばす敦盛の謡じゃ」

「されば、清洲の町人友閑をお招きなされて、常々、舞と小謡を遊ばしておられるのをいつのまにか、この方も見様聞き真似で覚えてしもうたのだ。べつにお止謡というわけではないし、謡うて悪いこともあるまい」

「いや、悪い悪い」

「なぜ、わるいか」

「めでたい婚礼の席に、ふさわしゅうない謡を、何も謡うことはない」

「桶狭間へ御出陣の晨、わが君が舞ってお立ちなされたという小謡。これから貧しきわれらの若夫婦が、世の中へ出る門立ちにも、満ざらふさわしくないこともなかろうが」

「そうでない。戦場に立つ覚悟は覚悟、新嫁を迎えた祝事は祝事。友白髪までも、尉と姥のようにまで、長寿もしようと心がけるのが、かえって真の武士というものぞ」