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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁
――いや今宵からは木下殿の御内室。改めて御祝儀な申そう」
と、杯台を、彼女の前へ送って云った。
「誰も彼も、友だちどもは、隠れものう知っておることよ。今さら、面伏せに、云い籠っておるよりは、さらりと、胸のうちを申してしまおう。……のう、木下どの」
「何か」
「しばし、お内儀を拝借もうすが」
「はははは。さあどうぞ」
「よろしいか。さて然らば、寧子どの、聞いていただきたい。――一時は、世間の口の端にもいわるる程、犬千代は、貴女が好きであった。今とても変りはない、寧子どのは、犬千代が好きな女性のおひとりでござる」
「…………」
急に犬千代のことばの節は、真面目になっていたのである。さなきだに、寧子の胸にも、人妻となったばかりの感傷がいっぱいであった。今宵で過ぎる娘時代のうちの一人の男性として、犬千代のことはこの先とも思い出の中から除ききれるはずはなかった。
「寧子どの。……処女心とよく人は危うげに申すが、貴女はよくもこの藤吉郎どのを見立てなされた。――恋というも愚かなほど、好きで好きでならなかったおん身を、この犬千代が木下殿へ譲ったのも、実は貴女以上に、わし自身、木下どのの人間に惚れたからでおざるよ。