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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

「木下へ伝えてやれ」

「使いを走らせろ」

と、仲間のなかに、彼の姿を見なければ、何となく納まらないくらいなものであった。

その藤吉郎が、こよいは花聟となったことである。平常の酒戦場でも、杯を挙げて披露に及ばずばなるまいと――これは酒のまわっている頭脳で思う常識で――わいわいとその家の門のれんまで押し揉んで来たのである。そして、池田勝三郎やら前田犬千代やら知れないことだが、門のれんから大土間の内へ、

「やいやい。布川の女どもも、男どもも、ばばどもも、みなこれへ出て出迎えぬかやい。三国一の聟殿な引っ連れて参りつるぞ。花聟な誰と思う。木下藤吉郎となんいう男じゃげな。花嫁な誰と思う。清洲の小町といわるる弓長屋の寧子どのじゃげな。――さあ祝え祝え。水掛祝いじゃ」

足もとの危ないのが危ないのへ絡みつく。藤吉郎はその中に揉まれたまま、土間のうちへ蹌めき込む。

呆っ気にとられた茶屋の者も、やがて事の次第が分って笑いどよめいた。祝言の杯を酌んでいる席から聟盗みをして攫って来たのだと聞いて驚きもした。水掛祝いという慣わしはあるが、それでは聟攫いじゃと腹を抱えて聟殿を珍しげに眺め合う。