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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

相変らず、大きな桐紋のついている木綿の陣羽織に、扇子づかいをして、この夏は、せっせと、城勤めに専念していた。

たまたま、犬千代と顔をあわせることはあるが、

「やあ」

と、こちらからいうと、

「やあ」

と、向うからも応じるだけで、寧子のねの字も、どっちからも口に出したことはなかった。しかしこの二人は、恋愛戦や木曾川出陣などを重ねて来てから、暗黙のうちに、お互いの認識を次第に深めて来たようなのである。

同じ、やあ、というにも、以前よりは親密の度が濃くなっていた。

それと共に、

(あいつ、一すじ縄ではいかん男だぞ)

一方が思うと、一方も。

(下手には見下せぬやつだ。気軽なようで底が知れぬし、大雑把なようで、眸づかいは鋭くて細かい)

知り合うほど一面では、こういうふうに、警戒し合っているところもあった。

だが、この二人のみは、なぜ先頃、信長が戦わずに美濃境から帰って来てしまったか? ――などという愚かな暇つぶしの臆測ばなしなどはしなかった。犬千代には分っていた。もとより藤吉郎の胸には、もっと早くから頷けていた。

信長は、戦わない!

そして以来ひたすら自重しているふうだった。