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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

母は、日吉がそこへ置いた塩の袋を拝んだ。そして沁々、

「おまえが、世間へ出て、初めて働いて取ったお塩――」

と、見入って云った。

日吉は、満足した。

母の歓ぶすがたを見ると、彼も体が浮くように欣しかった。そして、また何かで、この母を、これ以上にも、歓ばせてやりたいと心に誓う。

――そうだ、塩になろう!

我が家の塩だ。いや我が家ばかりでなく村々の塩に。いやいっそのこと、天下の塩だ。

日吉は、肚の中で、そんなことを呟いた。だがいつも、何気なく思うことを、思うままいうと、世間の者から、すぐほら吹きといわれる。そのせいで、この頃彼は、いわない癖がついていた。

「――じゃあ、おっ母、姉ちゃん。当分、帰らないよ」

日吉は、土間の口まで、後退りに退った。その間も、眼は、母とおつみの姿から離れなかった。

おつみは、いきなり伸び上がって叫んだ。――日吉の片足が、土間の外へ、跨ぎかけたからである。

「あっ、お待ち……日吉や、待って」

そして、母へ縋って、

「母さん、さっきいった青ざしの一貫文。あたしは、お嫁入りにも、何もいらない。いいえ、お嫁になんか、行かいでもよいから……日吉に、その金を遣って」