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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

惜しい才ゆえ、助けてつかわす――なれど、今じゃから申すが、日頃より、そちを嫉み憎しむ者が、笄が失せたといっては猿が盗んだといい、小刀印籠が紛失したと申しては、猿の仕業よと、つげ口の絶え間がない。……それ程そちは、人の嫉みをうける質じゃ。ようく心得て人中で働けよ」

「……はい」

「きょうのことも、家憲をたてに、家来どもが怒りおるとかいうことじゃから、そちを庇うて助けおくわけにも参らぬ。また、公然、暇をつかわせば、当家の門を十町も離れぬうちに、追討ち喰らって、討たれるであろう。……で、先ほど、疋田小伯どのからそっと注意せられたので、まだわし自身、何も聴いておらぬことにして、そちを旅先へ使いに出すのじゃ。……わかったか」

「ようく分りましてございまする。胆に銘じて……」

日吉は、鼻をつまらせて、何度も何度も嘉兵衛の姿を伏し拝んだ。

松下家の裏門から、その晩、日吉は出ていった。

振り顧って、

「忘れません。忘れません」

二度もつぶやいた。

人の恩の大きな愛と感激につつまれて、日吉は、いかに報いたらいいのかを――ぼんやり胸に抱きながら歩いた。

酷薄と、嘲蔑のなかに、常に彷徨って来た彼だけに、人の情けは人いちばい強く感じる彼だった。