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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁
名塚の砦の者は、必死に防戦していた。信長は、単騎、寄手の陣の中へ駈け入って、
「儂に弓を引く者の面見せい。信長はこれにあるぞッ。――佐渡、美作、権六の輩。何ほどの力やある。何ほどの思慮やあって儂に叛くッ。わが前へ来ってその太刀振りを見せいッ」
彼の声は、怒っていた。その大きな声は、寄手の鬨の声を消した。
「不忠の臣ども、信長が成敗してくるる。逃ぐるも不忠ぞ!」
林美作は、その声に恐れをなして逃げ出した。どう考えても、信長の声と思えなかった。雷鳴に追われているような心地だった。
彼の恃みとする将兵たちにも、主君というものに対しては、先天的な観念がある。
――直接、信長の姿、信長の声、しかもその峻烈な威風に駈けちらされると、手も槍も出なかった。
「待てッ。逆賊」
信長は、逃げる美作を見つけ、馬上から槍で突き刺した。
そして、血ぶるいしながら、美作の兵へ向って、宣言した。
「主を討っても、そちらは主とはなれぬ身ぞ。叛逆の徒に操られて、百世の汚名を残さんよりは、謝して、信長の馬蹄の前に悔いよ。悔ゆる者は、助けおく」
左翼の陣が崩れ、美作が討たれたと聞くと、柴田権六は陣を消して、末盛城へ逃げこんでしまった。