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いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

線上閱讀長谷川 時雨《新編 近代美人伝 (下)(いちかわくめはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 頁

青空文庫

市川九女八

一

若い女が、キャッと声を立てて、バタバタと、草履を蹴とばして、楽屋の入口の間へ駈けこんだが、身を縮めて壁にくっついていると、

「どうしたんだ、見っともねえ。」

部屋のあるじは苦々しげにいった。渋い、透った声だ。

奈落の暗闇で、男に抱きつかれたといったら、も一度此処でも、肝を冷されるほど叱られるにきまっているから、弟子娘は乳房を抱えて、息を殺している。

「しようがねえ奴らだな。じてえ、お前たちが、ばかな真似をされるように、呆やりしてるからだ。」

舞台と平時との区別もなく白く塗りたてて、芸に色気が出ないで、ただの時は、いやに色っぽい、女役者の悪いところだけ真似るのを嫌がっている九女八は、銀のべの煙管をおいて、鏡台へむかったが、小むずかしい顔をしている渋面が鏡に写ったので、ふと、口をつぐんだ。

七十になる彼女は、中幕の所作事「浅妻船」の若い女に扮そうとしているところだった。

「お師匠さん、ごめんなすって下さい。華紅さんが、他のお弟子さんと間違えられたのですよ。」

「静ちゃん、その娘に、ばかな目に逢わないように、言いきかせておくれよ。」

九女八は、襟白粉の刷毛を、手伝いに来てくれた、鏡のなかにうつる静枝にいった。