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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
線上閱讀長谷川 時雨《新編 近代美人伝 (下)(いちかわくめはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 頁
根岸の家にも一緒にいる内弟子の静枝は、他のものとちがって並々の器量でないことを知っているので、
「静ちゃん、あすこの引抜きを、今日は巧くやっておくれ。引きぬきなんざ、一度覚えればコツはおんなじだ。自分が演るときもそうだよ。」
静枝は――後に藤蔭流の家元となるだけに、身にしみて年をとった師匠の舞台の世話を見ている。
名人と呼ばれ、女団十郎と呼ばれ、九代目市川団十郎の、たった一人の女弟子で、九女八という名をもらっている師匠が、歌舞伎座のような大舞台を踏まずに、この立派な芸を、小芝居や、素人まじりの改良文士劇や、女役者の一座の中で衰えさせてしまうのかと、その人の芸が惜くって、静枝は思わず涙ぐんだ。
鏡へうつる眼のなかのうるみを、見られまいとしてうつむくとたんに、九女八づきの狂言方、藤台助が入口の暖簾を頭でわけてぬっと室へはいって来た。
「どうしたんだ、叱られでもしたのか。」
そういうのへ、九女八は審しそうに顔を向けた。静枝へいっているのではないと思ったからだった。
「ははァ、からかったのはお前さんか。」
九女八は、若い女へ調戯たがる台助のくせを知っているので、口へは出さないが、腹の中でそう思っている。