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いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

線上閱讀長谷川 時雨《新編 近代美人伝 (下)(いちかわくめはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 頁

青空文庫

「そのお邸が、モルガンさんのお宅だそうですが、お訪ねなすったらいかがです。」

フランスのオダン氏は、日本の美術学生の面倒を見るので有名で、世話にならない者はないほどだった。夫人は日本婦人で、お雪の年頃とおなじほどだった。

「でも、」

と、オダン夫人は考えぶかく同乗の女の好意を謝絶った。

「あまり、お逢いなさりたがらないそうですから――」

そうした、おなじ国の、おなじ年頃の、フランスの人になっている、おなじ京都の女性にさえお雪は往来がなかったのだ。生家へも、母親の死んだあとはあまり便りがなく、一昨年京阪を吹きまくった大暴風雨に、鴨川の出水をきいて、打絶えて久しい見舞いの手紙が来たが、たどたどしい仮名文字で、もはや字も忘れて思いだすのが面倒だとあった。

だが、母のない家へも仕送りは断っていない。財産管理者から几帳面に送ってきた。

お雪には子はないのか――誰も子供のことをいわないから最初からないのであろう。モルガンは四十三歳でこの世を去ってしまっている。

それは、世界大戦のはじまった時だった。紐育に行かなければならない用事があって、モルガンはお雪を残して単独で行ったが、フランスが案じられるし、ぐずついていると、ドイツの潜航艇が、どんなに狂暴を逞しくするかしれないと、所用もそこそこに、帰仏をいそいだのだった。