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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

丹尾は怪訝な表情になった。

「ぼくのことじゃなかったのか?」

「そうだよ。君のことなんか聞いてやしない」

五郎は警戒の姿勢を解かなかった。他人の気分に巻き込まれるのは、今のところ心が重かった。

「武生のペンキ屋さんのことだ」

「ああ。あれか」

がっくりと肩を落した。

「あれは幸福ですよ。兄嫁との間に四人も子供をつくってさ。しかし兄貴が幸福であろうとなかろうと、今のぼくには関係ない」

「誰だって他の人とは関係ないさ」

五郎はなぐさめるように言った。四人も子供を産んだ中年の女を考えたが、索漠として想像までには結ばなかった。

「他の人と何か関係があると思い込む。そこから誤解が始まるんだ」

運転手は会話を耳にしているのかどうか、黙ってハンドルを動かしている。赤い両掌で丹尾は顔をおおった。十分ほどそうしていた。五郎は窓外を眺めていた。丹尾は掌を離した。

「鹿児島一円を廻ったら、熊本に行く。阿蘇に登るつもりです」

「阿蘇にも映画館があるのかい?」

「阿蘇にはありませんよ。山だから」

丹尾は言った。

「あんな雄大な風景を見たら、ぼくの気分も変るかも知れない。そうぼくは思う」

「うまく行けばいいがね」