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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

空の荷台には、五郎の他に、もう一人若者が乗っている。それが運転手と話し合う。何の意味か、さっぱり理解出来ない。他国の人間や隠密が這入り込まないための、島津藩の言語政策だという説を聞いたが、それはうそだろう。言葉とはそんなものでなかろう。そう思ってはいるが、五郎はしだいに自分が隠密であるような気がして来る。

今朝、彼は密航者であった。

十時に朝食をとったが、眼が覚めたのは、ずっと以前である。やかましい音がする。五郎は掛布団を頭までかぶる。

〈うるさいじゃないか。病院だというのに!〉

布団の重さや感触の違うことに、すぐ気がつく。五郎は布団をはねて飛び起きた。窓をあけると、数え切れぬほどの鴉が高く低く飛び交い、啼き交わし、その声が空をひっかき廻すようだ。彼はいささか動転して、鴉たちの動作をしばらく見上げていた。

〈これはまるで鴉の町じゃないか〉

乾いた下着を取入れ、五郎は窓をしめ、寝床にとって返した。しかしもう眠る気がしない。また窓を細めにあけ、外の様子をうかがう。こんなにかしましい鳴声は、記憶にない。二千羽いるとのことだが、戦後急に殖えたわけではあるまい。