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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

女指圧師は入って来るなり言った。

「ひどか部屋ね。物置のごたる。お客さん。よう辛抱出来なさるね」

「仕方がないんだ」

五郎は答えた。

「おれはそんなことに、もう怒らないことにしている」

上衣を床の間に放り投げる。とたんにポケットから白い貝殻が二、三個、畳にころがり出た。彼はそれを横眼で見ながら、毛布の上に横になった。

妙なこり方をしている。そのことから、湯之浦温泉の話になった。女は話好きらしく、いろんなことを問いかけて来る。背中が揉みほぐされると同時に、酔いが背に廻って来る。やはりくすぐったい。が、昨夜ほどではない。圧し方が素直なのだろう。

「うん。飛行機や汽車に乗ったり、足でてくてく歩いたり――」

彼は身元調べをされるのが、いやであった。いい加減にあしらう口調になる。

「ここに来て、ズクラになった」

「ズクラ?」

「いや。何でもないんだ。おれの故郷の方言だよ」

「熊本は初めて?」

「うん。いや。昔いたことがある」

「いつ頃?」

「君がまだ生れる前さ」

「ああ。判った。あんたはそん時、兵隊だったとでしょう」

「うん。よく判るね」

彼はうそをついた。

「今日一日、市内のあちこちを歩き廻ったよ。