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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

天願氏はうつむいていた顔を上げた。

「僕とは何の関係も無いのだよ」冷たい眼付になった。

「あの女が死のうが死ぬまいが、僕の知った事じゃない」

その時、襖を叩く音がして、旅川が入って来た。どてらを着込んで落着きなくきょろきょろして坐った。

「もう死んだんですか」

「まだらしい」

と天願氏が陰欝な調子で言った。

天願氏は旅川を嫌っている。私はそれを知っていた。旅川が俗人だから嫌う以上に、何か深い、天願氏の性格の秘密があるらしかった。私は黙っていた。

「呼吸が四十二あったからねえ」

旅川は私と同じ高等学校だけれど、今は帝大の医学部に居るから、そんなことを言うのである。

「先刻の唸り声、もう止んだようだけれど、だんだん早くなって来るから、あわてて時計で数えたのさ。一分間に四十二ですよ。天願さん」

「あんまり早いのは悪いのかね」

「勿論悪いですよ。体が衰弱している証拠だから」

日が落ちたと見えて、窓の外が蒼然と暗くなった。夕闇がもたれかかった障子に蛾が一匹音を立てた。気が欝して、背筋が固くなったような気がする。旅川が話し出した。

「僕の部屋は、あの部屋の真上なんで、とても居たたまれなかった。