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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
繰る指が、おさえようとしてもぶるぶるふるえた。
(船団が見えた。それだけのことに皆興奮している)
私をも含めて、度を失った此の一群の男たちに、私は言い知れぬ不快なものが胸に湧き上って来るのを感じた。不快と言うよりも、もっと憤怒に近い感情であった。ああ、自分の体も八つ裂きにし、そして彼等のも八つ裂きにし、谷底にでも投げ込みたい。私は手刀で力をこめて頸筋を、えいえい、とたたいた。たたく度に後頭部に、しびれるような感覚を伴って血が上って来た――
「村上兵曹。村上兵曹。訳文点検御願い致します」
兵隊の声であった。私は手を伸ばして訳文紙を受取った。稚拙な字で、翻訳文がしたためてある。
「サキノ敵船団ハ夜光虫ノ誤リナリ。大島見張所」
苦い笑いが浮び上って来た。すべては茶番に過ぎないではないか。もし米軍が日本の電波状況を傍受していたなら、此の突如として巻き起った電波の嵐を、――大島から横鎮へ、横鎮から全国へ、部隊から部隊へ、ひっきりなしに打ち廻された作戦特別緊急信の大群を、何と解釈しただろう。此の部隊にも、先刻佐鎮から、即時待機の命令が出た。今頃は整備兵らが起されて、仕事にかかっている筈である。