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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
「何だい、そりゃあ」
「止めろ、止めろ」
兵隊は、ますます調子を早めて行った。目が廻るのか、額を流れる汗が眼に入るのか、眼をつむったまま憑かれたもののように身体を烈しく動かした。よろめいて、身体を壕の壁で支えた。電灯の光まで土埃がうっすらと上って来た。けろりとした顔付になって兵隊は敬礼をした。
「終りました。四国の踊りであります」
歌い声が新しく起った。何か弥次が飛んだようだけれど、はっきり聞えない。向うの方で、麦酒瓶が砕ける音がした。そして、雑然たる合唱がはじまった。
さらばラバウルよ 又来るまでは
しばし別れの 涙がにじむ
私は、眼をつむった。動悸が胸にはげしかった。掌で、顎を支えた。顔についた土埃のため、ざらざらとした。頭がしんしんと痛かった。じっと一つのことを考えて居た。
死ぬのは、恐くない。いや、恐くないことはない。はっきりと言えば、死ぬことは、いやだ。しかし、どの道死ななければならぬなら、私は、納得して死にたいのだ。――このまま此の島で、此処にいる虫のような男達と一緒に、捨てられた猫のように死んで行く、それではあまりにも惨めではないか。生れて以来、幸福らしい幸福にも恵まれず、営々として一所懸命何かを積み重ねて来たのだが、それも何もかも泥土にうずめてしまう。