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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 頁

青空文庫

」

徹太郎はそう言って、大きく笑った。運平老も笑った。そして肩をつんといからしながら、

「誰が何と言おうと、あれだけはわしの近来の傑作じゃ。その証拠には、わしは二人がいつ座敷にはいって来たかも知らないで、無心に筆を運んでいたんじゃ。」

それはいかにも変な論理だった。しかし、もう徹太郎には、それを攻撃の材料にする気はなかった。そして絵の話はそれでけりがついた。お祖母さんは、さっきから気乗りのしない顔をしてふたりの話をきいていたが、茶棚の置時計に眼をやって、

「おやもう十一時だよ。ご馳走は何にしようかね。」

「さあ、なるだけうまいものがいいですね。蒲鉾なら、僕、町から買って来て、戸棚にしまっておいたんです。」

「今日は大堀が干さるんで、午からだと小鮒と鰻が手にはいるんだがね。」

「あっ、そうそう、今日でしたね、大堀の干さるのは。じゃあ、僕行ってみましょう。もういくらか受籠にはいってるかも知れません。」

徹太郎は、せき立てるように恭一と次郎とをうながして、いっしょに大堀に行った。

大堀というのは、村で一番大きな灌漑用の溜池だった。この辺では、春になると溜池の水を順ぐりに川に落し、底にたまった泥を汲みあげて畑の肥料にするのだったが、今日はその大堀を干す番になっていたのである。