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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 頁

青空文庫

」

運平老はもう一度大きく笑った。

俊亮も微笑した。しかし彼は、鼻の奥に甘酸っぱいものを感じて、眼を伏せたままだった。

運平老は、それから、襖の向こうにいた夫人を呼んで、湯豆腐と酒とを用意させた。まだ夕食には早い時刻だったし、俊亮はそれを辞退して帰ろうとしたが、運平老が、息子の徹太郎ももう帰るころだから、ぜひ会っておいてくれと言うので、腰をおちつけることにした。

大巻夫人は、でっぷりと肥ったお婆さんだった。俊亮も、口をきくのは今日がはじめてだったが、無口なわりに人が好さそうで、いかにもお芳の母らしいにぶさがあった。運平老が陶然となって、

「お芳も、これでいよいよ落ちつくところがきまって、安心じゃな、婆さん。」と言うと、

「どうか末永くお頼みいたします、徹太郎の嫁をもらうにも、あれが居りましては、何かと工合が悪うございましてな。」

と、正直なところを言って、俊亮の前に丁寧に頭をさげた。その様子が、俊亮をほろりとさせた。

徹太郎が帰って来たのは、もう暗くなるころだった。彼は師範出の秀才で、附属の訓導をつとめて居り、一里ほどのところを自宅から通っている。今年ちょうど三十歳で、眼鼻立のいかついところが、運平老そっくりである。