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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

線上閱讀折口 信夫《死者の書(ししゃのしょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 頁

青空文庫

山国の狭い平野に、一代一代都遷しのあった長い歴史の後、ここ五十年、やっと一つ処に落ちついた奈良の都は、其でもまだ、なかなか整うまでには、行って居なかった。

官庁や、大寺が、にょっきりにょっきり、立っている外は、貴族の屋敷が、処々むやみに場をとって、その相間相間に、板屋や瓦屋が、交りまじりに続いている。其外は、広い水田と、畠と、存外多い荒蕪地の間に、人の寄りつかぬ塚や岩群が、ちらばって見えるだけであった。兎や、狐が、大路小路を駆け廻る様なのも、毎日のこと。つい此頃も、朱雀大路の植え木の梢を、夜になると、鼠が飛び歩くと言うので、一騒ぎした位である。

横佩家の郎女が、称讃浄土仏摂受経を写しはじめたのも、其頃からであった。父の心づくしの贈り物の中で、一番、姫君の心を饒やかにしたのは、此新訳の阿弥陀経一巻であった。

国の版図の上では、東に偏り過ぎた山国の首都よりも、太宰府は、遥かに開けていた。大陸から渡る新しい文物は、皆一度は、この遠の宮廷領を通過するのであった。唐から渡った書物などで、太宰府ぎりに、都まで出て来ないものが、なかなか多かった。

学問や、芸術の味いを知り初めた志の深い人たちは、だから、大唐までは望まれぬこと、せめて太宰府へだけはと、筑紫下りを念願するほどであった。