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えどげいじゅつろん
江戸芸術論
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《江戸芸術論(えどげいじゅつろん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,130 字 · 167 頁
その写実に遠ざかりたる色彩と形状とは能く江戸演劇の性質に調和し、爰に浮世絵と同じく模様風なる美術をなす。余はしばしば浮世絵の特徴につきて画中美人の衣服が周囲の居室、窓、縁側、柴折戸等に対しいふべからざる音楽的調和をなせる事を説きぬ。この見解は直に江戸演劇の舞台に転用する事を得るなり。本舞台いつもの処に置かれたる格子戸は恋人を見送る娘をして半身をこれに倚らしめ、以て艶麗なる風姿に無限の余情を添へしめ、忠臣義士が決然家を捨てて難に赴かんとする時、一層その英姿を引立たしむる等その活用の範囲挙げて数ふべくもあらず。『二十四孝』十種香の場の幕明を見たるものは必ず館の階段に長く垂敷きたる勝頼が長袴の美しさを忘れざるべし。浅倉当五が雪の子別れには窓の格子こそ実に恩愛の柵なれ。
学海桜痴両居士が活歴劇流行の頃は唄鳴物並に床の浄瑠璃はしばしば無用のものとして退けられたり。彼らは江戸演劇を以て純粋の科白劇なりと思為したるが如し。然れどもこはいまだよく江戸演劇の性質を究めざる者の謬見なり。余は江戸演劇を以て仏蘭西のオペラコミックの如き物に比較せんと欲するなり。如何となれば江戸演劇は三絃を主とする音楽なくしては決して成立するものにあらず。