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かいじょうのみち
海上の道
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《海上の道(かいじょうのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 頁
七
この村はその後ほどなく、陸軍の大砲実験場に取り上げられて、東の外海の海岸に移されてしまったが、もとは伊勢湾の入口に面して、神宮との因縁も深く、昔なつかしい形勝の地であった。村の中央には明神さまの御社と清い泉とがあって村の人の渇仰を集め、それに養われたと言われる無筆の歌人、漁夫磯丸の旧宅と石の祠とは、ちょうど私の本を読む窓と相対していた。毎朝早天の日課には、村を南へ出て僅かな砂丘を横ぎり、岬のとっさきの小山という魚附林を一周してくることにしていたが、そこにはさまざまの寄物の、立ち止まってじっと見ずにはおられぬものが多かった。船具や船の破片にはたまたま文字の痕があって、遠い海上の悲しみを伝うるものがあり、一方にはまた名も知らぬ色々の貝類をゆり上げて、「その玉もてこ」と詠じた昔の歌の風情を、想い起さしむる場合もあった。
七
今でも明らかに記憶するのは、この小山の裾を東へまわって、東おもての小松原の外に、舟の出入りにはあまり使われない四、五町ほどの砂浜が、東やや南に面して開けていたが、そこには風のやや強かった次の朝などに、椰子の実の流れ寄っていたのを、三度まで見たことがある。