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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

恐怖と煩悶に、目のいろまでうつろであった。

後にしてゆく家には、花世の低く泣く声が洩れて、いつまでも、彼の耳にこびりついた。彼は、ともすると、仰向けに倒れそうになっては、東儀の腕に支え止められた。

「東儀殿、武士の情けです。しばらく、ま、まってください……」

京橋河岸まで、四、五丁歩むと、郁次郎は、渇いた声で、こう哀願した。何たる、悲惨な、哀れむべき眸だろう。

「まだ疲れる程は、歩いておらぬが」

「いや……少々、お話があるのです」

「話なら奉行所で承ろう」

「いや、秘密に」

「何じゃ」

「……後生です、情けです、恩に着ます、逃がして下さい拙者を」

と、郁次郎は四辺を見廻しながら、東儀与力の袂へ、何か、ずしり、と重い物を落した。

「や、これは、金ではござらぬか」

「そうです、それを寸志の礼としてさし上げますゆえ、拙者を」

「だまンなさい!」

と、東儀は一喝して、

「オオ、しかもこの金には、佐渡平の刻印が打ってある。あの両替屋から、為替として受け取った金であろうが」

「そうです」

「悪党にも似合わぬ見下げ果てた未練者だ。東儀三郎兵衛は不肖ながら、罪人のけがれた金を受けて富もうとは思わぬ。