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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

為替と恋文

横丁から横丁へと、町人の脚は、鹿のように迅かった。けれど、何度ふり顧っても、すぐうしろに加山耀蔵の姿が迫っていたので、すッかり呼吸を疲らしてしまったらしい。

「――旦那。くたびれるだけ損だ。あっさりと、お縄を頂戴いたしやしょう」

と、立ちどまって、紅く上気した顔に、にっこりと笑靨を泛かめて、神妙に、二本の腕をうしろへ廻した。

為替と恋文

「ウム、男らしい!」

と、加山耀蔵は跳びかかって、すぐに、熟練した縄さばきで、ぴったりと、縛り上げた。

「歩け」

「真っ昼間です。旦那あ、あっしも神妙にしたんですから、なるべく、人通りのねえ所を歩いておくんなせえ。――こんな姿は、可愛い女にゃ、見せたくねえ」

耀蔵は、附近の自身番へ、縄付を抛り込むように預けて、すぐに前の四つ辻まで駈け戻った。そして、そこらの大通りを中心に縦横に駈け廻って、僚友波越八弥の吉左右をさがし求めた。

と、その波越は、神田川の堤の上に、唇を噛んで、無念そうに川面を睨んでいた。

「オイ、波越、どうした」

駈け寄って、肩を叩くと、

「加山か。……残念だ!」

「逃がしたのか」

「これを見てくれ」

と、波越は腕につかんでいる捕縄を、わなわなと見せて、口惜しそうに、叩きつけた。