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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁

青空文庫

「待てッ、曲者」

四、五丁跳んでゆくと、青木川の岸に出た。耀蔵は、追いつくや否、虚無僧のうしろから組みついて、

「御用ッ」

と、叫んだが、何か怖ろしいものにでも触ったように、手を竦めて、

「やっ、あなたは」

と、相手の天蓋の人を見直した。

「――頼みます! 見遁して」

「その声は、花世どのだな」

「情けじゃ」

跳び退きながら、天蓋の人影は、彼に向って、白い双つの手を合せた。

そして、青木川の土橋を、白鷺のように、ばらばらっと渡って行くのを見送りながら、

「ウーム……」

と、耀蔵は空しく見送っていたのである。

だが!

彼はふと、いつか同僚の波越八弥に言ったことばを思い泛かべた。

法縄は公明に! 十手は正大に! およそ社会の清浄と幸福のために、征悪の兵士となって働く捕手は、いかなる場合にも、いかなる相手にも、それが悪である以上は、断じて、仮借をしてはならない。私情にとらわれてはならない!

――と声を大にして、友を叱ったあの言葉を。

「おお、逃がしてはならぬ」

耀蔵は、吾れと吾が心を叱咤して、すぐに、花世を追いかけて行ったが、もう、彼女の行方は分らなかった。

仄白い光が、行く手にひろがっていた。