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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《狂い凧(くるいだこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 頁

青空文庫

そこであわてたのがいけなかった。がくん、がくん、がくん、と三度ずっこけ、最後に歩道の角に尻餅をつくのに、二秒もかからなかった。しかし誰も笑わなかった。笑いもしなかったかわりに、誰も手を貸しては呉れなかった。そのきっかけが、誰にもつかめなかったのだろう。それほど調子良く、きわめて自然に、栄介はずっこけたのだ。

栄介が街路樹の支え木にすがるようにして立ち上った時、バスは大きな尻を振りながら発車した後であった。彼は惨めな気持になって、汚れた鞄を拾い上げようとしたが、腰のあたりがぎくぎくと痛んで、なかなか拾えなかった。家まで歩いて帰れそうにもない。彼は支え木につかまったまま、タクシーを呼んだ。

家に戻ると彼は靴を苦労して脱ぎ、ベッドまで這って行った。紅茶を運んで来た家政婦に、医者を呼んで呉れるように頼んだ。家政婦は、どうかなさいましたか、と聞くこともせず、電話口に取りついた。もっとも彼女は、さっき栄介が猫のように這っていた時も、遠くから無表情に黙って眺めていた。電話をかける声を聞きながら、栄介はベッドの中で、

「まるでロボットみたいな女だな。感情を全然あらわさない」