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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《狂い凧(くるいだこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 頁

青空文庫

そのひときわ高い山を、青年が指差した。

「あれは高尾山です」

欅並木の尽きるところに、白い正門があった。車はその脇で停った。私たちは各々扉をあけて降り立った。青年だけは座席にとどまった。

「すこしくたびれたんで、ここで待っています」

青年は白い清潔な歯並みを見せて笑った。

「それに僕は御陵なんかには、あまり興味がないんです」

幸太郎が先に正門を入った。栄介はわざと遅れるために、入口の事務所の前に佇ち、その前に生えた木を見上げていた。私も栄介に従った。

「これ、スモモだね。珍しいな」

栄介は私に言った。スモモはまだ花をつけていなかった。

「城介の手紙にもあったが、あちらにはこの木が多いらしい。実は桃よりも小さくて、酸っぱいそうだ」

十間ほど入ったところから、幸太郎が振返った。栄介がのろのろしているのを認めると、くるりと顔を戻して、ひとりで歩き出した。その背の形や足の動かし方は、栄介のそれにそっくりであった。老人の背はすべてを拒否し、背中全体で怒っているように見えた。広い参道の両側はぎっしりと杉の並木でおおわれている。斜めにさす日光が、その杉のてっぺんで淡く煙っていた。