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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁

青空文庫

それが、始め上体に衝動が起ったと見る間に、両眼をき口を喇叭形に開いて、ちょうどムンクの老婆に見るような無残な形となった。そして、絶えず唾を嚥み下そうとするもののような苦悶の状を続けていたが、そのうちようやく、

「おお、儂の身体を見るがいい。こんな不具者がどうして……」と辛くも嗄れ声を絞り出した。が、真斎には確か咽喉部に何か異常が起ったとみえて、その後も引き続き呼吸の困難に悩み、異様な吃音とともに激しい苦悶が現われるのだった。その有様を、法水は異常な冷やかさで見やりながら云い続けたが、その態度には、相変らず計測的なものが現われていて、彼は自分の言の速度に、周到な注意を払っているらしい。

「いや、その不具な部分を俟ってこそ、殺人を犯すことが出来たのですよ。僕は貴方の肉体でなく、その手働四輪車と敷物だけを見ているのです。たぶんヴェンヴェヌート・チェリニ(文芸復興期の大金工で驚くべき殺人者)が、カルドナツォ家のパルミエリ(ロムバルジヤ第一の大剣客)を斃したという事蹟を御存じでしょうが、腕で劣ったチェリニは、最初敷物を弛ませて置いて、中途でそれをピインと張らせ、パルミエリが足許を奪われて蹌踉くところを刺殺したのでした。