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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁
しかも、その無数の線条は、ほとんど室全体の床にわたっていて、濛気で堆塵の上に作られた細溝には相違ないけれども、不思議なことに、天井や周囲の壁面には、それと思しい痕跡が残されていない。そればかりでなく、さらに床を横合から透かしてみると、まるで月世界の山脈か沙漠の砂丘としか思われぬような起伏が、そこにもまた無数と続いているのだった。それ等は、いかなる名工といえどもとうてい及び難い、自然力の微妙な細刻に相違ないのである。
その室は石灰石の積石で囲まれていて、艱苦と修道を思わせるような沈厳な空気が漲っていた。突き当りの石扉の奥が屍室で、その扉面には、有名な聖パトリックの讃詩――「異教徒の凶律に対し、また女人・鍛工及びドルイド呪僧の呪文に対して」――の全文が刻まれていた。しかし、床上には足跡がなく、恐らく算哲の葬儀の際にも、古式の殯室儀は行われなかったものらしい。そうして、前室より先には誰一人入らなかったことが判ると、疑題のすべてはそこに尽きてしまった。つまり、水を洗手台から導いて、階段を落下させたという目的は、きわめて推察に容易ではあるが、次の煖炉の点火という点になると、その意図には皆目見当がつかないのだった。