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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁
一つ戻ってゆかないという静けさだった。第一、それを否定する厳然たる事実の一つと云うのは、伸子は既に五人目の人身御供に上っていて、その歴然たる他殺の証跡が、法水の署名を伴って検死報告書に記されているのだ。それから家族以外の彼女には、動機と目すべきものが何一つなく、しかも法水の同情と庇護を一身に集めていた伸子が、どうして犯人だったと信ぜられようか。それゆえ熊城には、それがえてして頭を痛めているものの罹りやすい、或る病的な傾向と見て取ったのも無理ではなかった。
「まるで、気が遠くなりそうな話じゃないか。それとも、真実君が正気でいるのなら、たった一つでも、僕はそれに刑法的価値を要求するよ。まずなにより、伸子の死を自殺に移すことだ」
「ところが熊城君、今度は、毛ほどのもの――と云うが扉の羽目にあって、それを君に、実際証拠として提供しよう」と法水は、相手の無反響を嘲り返すように、力を罩めて云った。
「ところで、例しに、こういう場合を考えて見給え。あらかじめ、針に竜舌蘭の繊維を結び付けて、一方の扉に軽く突き立てておき、その一端を鍵穴の中に差し入れて、そこへ水を注ぎ込む。