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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

彼は西洋の小説を読むたびに、そのうちに出て来る男女の情話が、あまりに露骨で、あまりに放肆で、かつあまりに直線的に濃厚なのを平生から怪んでいた。原語で読めばとにかく、日本には訳し得ぬ趣味のものと考えていた。従って彼は自分と三千代との関係を発展させる為に、舶来の台詞を用いる意志は毫もなかった。少なくとも二人の間では、尋常の言葉で充分用が足りたのである。が、其所に、甲の位地から、知らぬ間に乙の位置に滑り込む危険が潜んでいた。代助は辛うじて、今一歩と云う際どい所で、踏み留まった。帰る時、三千代は玄関まで送って来て、

「淋しくって不可ないから、又来て頂戴」と云った。下女はまだ裏で張物をしていた。

表へ出た代助は、ふらふらと一丁程歩いた。好い所で切り上げたという意識があるべき筈であるのに、彼の心にはそう云う満足が些とも無かった。と云って、もっと三千代と対坐していて、自然の命ずるがままに、話し尽して帰れば可かったという後悔もなかった。彼は、彼所で切り上げても、五分十分の後切り上げても、必竟は同じ事であったと思い出した。自分と三千代との現在の関係は、この前逢った時、既に発展していたのだと思い出した。