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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《ちくま日本文学014 谷崎潤一郎(しゅんきんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 頁
なるほど、水の流れ、山のたたずまい、さも落人の栖みそうな地相である。
大谷と云う家を尋ねると、すぐに分った。里の入り口から五六丁行って、川原の方へ曲った桑畑の中にある、ひと際立派な屋根の家であった。桑が丈高く伸びているので、遠くから望むと、旧家らしい茅葺きの台棟と瓦葺きの庇だけが、桑の葉の上に、海中の島のごとく浮いて見えるのがいかにも床しい。しかし実際の家は、屋根の形式の割合いに平凡な百姓家で、畑に面したふた間つづきの出居の間の、前通りの障子を明け放しにして、その床の間つきの方の部屋に主人らしい四十恰好の人がすわっていた。そして二人の姿を見ると、刺を通ずるまでもなく挨拶に出たが、固く引き締まった日に焼けた顔の色と云い、ショボショボした、人の好さそうな眼つきと云い、首の小さい、肩幅の広い体格と云い、どうしても一介の愚直な農夫である。「国栖の昆布さんからお話がありましたので、先程からお待ちしていました」と、そう云う言葉さえ聞き取りにくい田舎訛りで、こちらが物を尋ねてもはかばかしい答えもせずに、ただ律義らしく時儀をして見せる。思うにこの家は今は微禄して、昔の俤はないのであろうが、それでも私にはかえってこう云う人柄の方が親しみ易い。