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しゅんきんしょう

ちくま日本文学014 谷崎潤一郎

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《ちくま日本文学014 谷崎潤一郎(しゅんきんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 頁

青空文庫

そしてその稲荷のお使いである「命婦之進」と云う白狐も、どこかその祠の近くに巣を作っていたのではないか。「そちの知ておる通りととさんがよべば狐のあのようにそばへくるようになるも」とあるのは、本当にその白狐が祖父の声に応じて穴から姿を現わすのか、それとも祖母になり祖父自身になり魂が乗り移るのか明かでないが、祖父なる人は狐を自由に呼び出すことが出来、狐はまたこの老夫婦の蔭に附添い、一家の運命を支配していたように思える。

津村は「此かみもかかさんとおりとのすきたる紙なりかならずかならずはだみはなさず大せつにおもうべし」とあるその巻紙を、ほんとうに肌身につけて押し戴いた。少くとも明治十年以前、母が大阪へ売られてから間もなく寄越された文だとすれば、もう三四十年は立っているはずのその紙は、こんがりと遠火にあてたような色に変っていたが、紙質は今のものよりもきめが緻密で、しっかりしていた。津村はその中に通っている細かい丈夫な繊維の筋を日に透かして見て、「かかさんもおりとも此かみをすくときはひびあかぎれに指のさきちぎれるようにてたんとたんと苦ろういたし候」と云う文句を想い浮かべると、その老人の皮膚にも似た一枚の薄い紙片の中に、自分の母を生んだ人の血が籠っているのを感じた。