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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁
それらを完全に理解するためには別の眼が要るのである。つまり、すぐれた演出による『桜の園』なり『三人姉妹』なりの舞台面によって養われた眼を、そのまま何の修正も加えずに、彼の短篇小説の上にも転じることが、よし心構えだけにせよ要求されるのである。読者が演出者たることを強いられる極端な場合の一例である。片言や点景が、筋の運びのためにあるのではなく、もっと奥深い調和のためにあり、遥か野末から弦の断れたような物音が何ごとかを暗示し、そのまま何の解決もなしに永遠の流れに融けて入る――といったことを、彼は何も戯曲の中だけでやったのではないのである。
彼の行文は明晰で平明だ。言語学者の眼から見ると、殆んどスラヴ語のニュアンスを欠いているとさえ言われている。しかしその底には怖るべき漠然さがある。彼は非常に多くの隠微なものを読者の演出にまで残している。恐らく彼は、音楽に於ける漠然さの価値を信じたポオと同様に、散文芸術に於ける漠然さを尊んだのでもあろうか。
そういう彼の短篇技法を、要約して述べることは恐らく大変に困難なことに違いない。彼は実に豊富なあれこれの手法を駆使して、巧みにこの要求をみたしているからである。