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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁

青空文庫

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すでに見たように、彼は自らを語ることも人に語られることも共に嫌いだったが、これは二つとも註文どおりに行っていない。前者は彼が優に二千通をこえる手紙をわれわれの手に残すことによって彼みずから裏ぎっている観があるし、後者は周囲の人々の手になる親切な回想記がたくさんあって、われわれはその中から好みの肖像を選びだす自由にこと欠かない。もっとも手紙という形式の内的性格は案外複雑で、要するに法廷に出す文書ではないのだから宣誓の手数もいらず、したがって偽証罪を構成しないという不便がある。また、よしんば手紙が何千通とあって、その悉くが快活な饒舌にみちているにしても、しょせんニーチェが『善悪の彼岸』の中で言ったように、「自己について多く語ることは自己をかくす方便」という疑いを免れぬかも知れない。のみならず手紙は、退屈病患者にとって甚だ都合のいい形式でもあるに相違ない。相手の素姓も一々洗ってかかる必要がある。といったわけで頗る面倒だから、これは一応あと廻しにする。

チェーホフの人柄については、周知のようにコロレンコ、クープリン、ブーニン、ゴーリキイの回想をはじめ、弟ミハイール、妻オリガ、またはスタニスラーフスキイなど芸術座の人々、そのほか殆ど無数といってもいいほどの遠近の知人による証言がある。