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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁
比較的晩年ちかくのチェーホフに親近したゴーリキイの回想によれば、話がトルストイのことになると彼は、情合と当惑とが半々にまじったような微笑をちらりと浮べ、これは摩訶不思議なことだからうっかりした事は言えぬとでもいったふうに、声を低めるのが常だったそうである。敬遠には違いなかろうが、よほど手数のかかった敬遠だったことがこれで分る。『すぐり』を書いてから二年の後、つまり一九〇〇年の初め、トルストイが患ったことがあった。チェーホフはメンシコフに手紙を出して、胃腸の潰瘍でもあるまい、癌でもあるまいなどと、しきりに病状を案じているばかりでなく、もしトルストイに死なれたら自分の生活には大きな穴が明くだろう、自分は不信心者だが、ほかのどんな信仰よりもあの人の信仰が一ばん身近に感じられる……と、すなおな調子で告白している。そこにはみずからの死を四年後にひかえた肉体的衰弱から来る一脈の感傷はあるかも知れない。だがいずれにせよ、この老人が自分の信念をぐんぐん押し通して行く毅然たる生活態度に、チェーホフが及びがたく学びがたいものを、痛切に感じていたことだけは争えない。
多少ともこれに似た畏敬の念を彼に抱かせた同時代人があるとすれば、それはコロレンコだろう。