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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

線上閱讀神西 清《カシタンカ・ねむい 他七篇(チェーホフのたんぺんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 頁

青空文庫

それが十二人、二十四人とだんだん殖えていって、二百年三百年たった後の地上の生活は、想像もつかぬほど美しいものに……云々という鼠算がそれである。つまり個人のうちに救いを見るということは、結局またしても例の進化論的倫理説に落ちつくほかはない。ただし二百年三百年後は、四百年五百年後であるかも知れず、あるいは千年後であるかも知れず、要するに「時は問題でない」のだ。とにかくわれわれは現にノアの洪水以前の原始人ではないではないか。男女関係一つとってみても、もはや犬や蛙のような単なる獣性の作用ではなくなっているではないか。人間の耳はもはや動かず、全身に毛が密生してはいないではないか。である以上、進化の理法を信じないわけには行かないではないか。……チェーホフは反問するのである。

ところで、チェーホフは本気でこの二二ヶ四を信じていただろうか。遺憾ながら、彼がそれを信じていなかったという証拠はどこにもない。それのみかダーウィン=スペンサー系の進化論の信奉者として、彼はおそらく突然変異説など念頭に思い浮べもしなかったろう。その辺に彼の「唯物論」の限界が指摘され、初期ナロードニキー思想の残滓たる生物学的社会観の依然たる持主として非難される立派な根拠がある。