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ちゅうせいのぶんがくでんとう

中世の文学伝統

風巻 景次郎

線上閱讀風巻 景次郎《中世の文学伝統(ちゅうせいのぶんがくでんとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,977 字 · 230 頁

青空文庫

花見ればそのいはれとはなけれども心の中ぞくるしかりける

花にそむ心のいかで残りけむ捨てはててきと思ふ我が身に

出家の決意の定まったころの歌をついでにここへ掲げて置こう。

空になる心は春の霞にて世にあらじとも思ひ立つ哉

世を厭ふ名をだにもさは止め置きて数ならぬ身の思ひ出にせむ

歌の巧拙でない。その自体の中に宿った心のうめきが洩れているようである。

三十を過ぎて高野にいたころ、京から「思はずなること思ひ立つ」といってよこした人がある。

しをりせでなほ山深くわけ入らむ憂きこと聞かぬ所ありやと

そんな悲しいお便りは聞かずにすませるように、もっと山深くのがれよう。この人は女であったのかも知れない。

高野からはときどき吉野まで出かけたようで、時には庵を結んで住んでいる。

ながむとて花にもいたくなれぬれば散る別れこそ悲しかりけれ

吉野山ほき路づたひに尋ね入りて花見し春はひとむかしかも

月の歌も少し、

うちつけにまた来む秋の今宵まで月ゆゑ惜しくなる命かな

うき身こそいとひながらも哀れなれ月をながめて年を経にける

雲消ゆる那智の高根に月たけて光を貫ける滝のしら糸

老境の歌、

年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山