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「もくせい」ごうのなぞ
中谷宇吉郎集 第六巻
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第六巻(「もくせい」ごうのなぞ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,784 字 · 269 頁
流しを歩いて、そのままどぶんと湯の中にはいりこめるところに、温泉の値打ちがある。浴槽に手をかけて、足を持ちあげて、またいでやっと湯にはいるくらいなら、なにも温泉まで出かけていくことはない。
温泉に浸る感じは、浴槽のヘリに頭をもたせかけて、長々と身体を浮かせるところにある。それにも高いヘリのある湯槽では、はなはだ不便である。それから、話が少し幽玄になるが、自然界にある浴池は、みな池になっていて、湯槽のような高いヘリはない。鬱蒼たる森に囲まれた浅緑の小さい開け地の中に、水の透明な美しい池があるとする。ニンフがそこで浴みをする時、爪先からそろそろと水底の小砂利を踏んではいっていってこそ、ニンフ水浴の図になる。「やっこらしょ」と枠板をまたいで、水の中にはいるのでは、絵にもなんにもなるものではない。
これはもちろん冗談である。しかし温泉の浴槽が、低く掘り下げられて湯池になっていることが、温泉の感じを出す一つの要素であるという考えは、どうも本当らしい。妙なことに力瘤を入れるようであるが、人間の気持などというものは、あんがいにつまらぬ瑣細なことにひどく左右されるものである。