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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《二つの途(ふたつのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 頁

青空文庫

僕の容態が少しよくなると、看護服をぬいで普通の着物ばかり着ているが、また容態が悪くなると、看護服を着出すからね。この一週間許りは看護服ばかり着ている。」

信子は庭の方へ眼を外した。縁側の障子にはまってる硝子で四角に切り取られた庭は、陰欝に曇った寒空の下に荒凉としていた。雪と霜とに痛んで枯れはてている芝生の間には、湿気を帯びた真黒な土が処々に覗き出していた。

「お前は、」と啓介は云った、「泣いてるね。」

「いいえ。」と信子は答えた。そして鼻を一つすすって、彼の方を振り向いた。

「では眼を大きく開けてごらん。」

彼女はちらと微笑の影を口元に浮べて、眼を大きく見開いた。すると急に、眼の底が熱くなって、大粒の涙がはらはらと溢れ落ちた。彼女は其処につっ伏してしまった。

「そら泣いてるじゃないか。」

彼女は肩を震わしていた。あたりは静かだった。

「もう泣かなくてもいい。」と啓介はやがて云った。「僕が悪かった。許してくれ。僕は時々妙な気持に囚えられる。それは日が陰ってくるような気持ちだ。今迄明るかったものが、急に陰欝になってくる。凡てが頼りなく淋しく思われてくる。すると、自分を思い切って呵責みたいような、また一方では何かに縋りつきたいような、訳の分らない感情に巻き込まれてしまう。