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ふたつのじょぶん

二つの

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《二つの(ふたつのじょぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,903 字 · 236 頁

青空文庫

それにもかゝはらず余は今に到る迄此美代に対する感謝の念は薄らがぬ。」

この美代というのは、本名のようである。明治三十四年二月一日の日記に「美代帰る。手水鉢の水をはこぶとて台所にて取落し一面の水となる」とある。その美代のことであろう。この美代はその後間もなく二月の末に、夏子夫人が郷里高知へ療養のために帰った時も、高知まで付き添って行った娘である。

夏子夫人の病気は、正月になって少しずつ快方に向って行った。しかし五月に初産をひかえての喀血であるから、安心は出来ない。三十四年一月初旬の日記には、連日病人のことが書き添えてある。

一月一日「病人も起床して雑煮を祝ふ」

二日「病人よし」

三日「病人よし」

四日「病人、頭痛。足の関節も痛む」

五日「病人快からず。夜具の上に琴を横へてかきならす。早く戸を閉ぢて病床近く膳具を運ぶ。戸外には風のあるゝ音。心細き夜なり。夢の話。狸の人をばかす話」

六日「医師来診。最早肺部の呼吸音には毫も異状なきとの事なり。ミゼラブルの話などす」

七日「帰りて又ミゼラブルの続きを話す。病人大によし」

病状の起伏に、一喜一憂しながら、先生は細かく気を使って居られたのである。