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なつむしあんどん

夏虫行燈

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《夏虫行燈(なつむしあんどん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,200 字 · 37 頁

青空文庫

『おやじ』

『へい』

『今出て行ったのは、毎度ここへ見える客か』

『いいえ、先刻の雨上りに、飛び込んできたフリのお客でございます』

『江戸者のようだな、言葉や物腰が……』

『左様でございます。けれど、何かお話の様子では、青沼の光沢寺に泊って居るような口吻でございましたが』

『光沢寺といえば――一蓮寺の別院だな』

『はい、左様に聞いておりますが』

『ふウ……む』と、何か独り頷いて、

『亭主、きょうのも又、お帳面だぞ』

『へいへい、何日でも』

平四郎は、ぶらぶら帰って来たが、五刻過ぎたら寝ろといっておいたので、婆やはもう戸締りを固くして寝ていた。

戸を軽く叩いて、呼び起しているまに、彼は、崖上の萩井家の灯影の辺りから、微かに、琴の音が流れて来るのを聞いた。

『……オ。お小夜はまだ、知らないと見える』

平四郎は崖を仰いで、ふと唇を噛んだ。

婆やが、眠たい顔して、戸を開けた。平四郎は家に這入るとすぐ、

『昼間、風に吹かれて、紛れ込んで来た女小袖は、萩井家へ返してくれたか』

『はい、お返しいたしました』

『誰が取りに来た?』

『わたくしが持って行って、裏門にいる小者へ渡してやりました』