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なつむしあんどん

夏虫行燈

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《夏虫行燈(なつむしあんどん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,200 字 · 37 頁

青空文庫

切腹部屋から出された瞬間から――彼は、ふたたびもう、死というものを、思うのも怖しくなってしまった。

わけて、お小夜の姿を見てから、俄に、未練な――生への執着が――堪らなく強くなっていた。

それに、武道にかけては、自信がない。

いわんや高安平四郎を相手にしては。

――だから、今、平四郎のすがたを、本堂の階段に見ると共に、

(まだ、後詰は来ないか)

と、山門から後を、無意識にふり顧った。

平四郎は、意地悪く、

『来たか!』

と、彼方から男女へ声をかけた。

声をかけられてはもうそれ迄だった。

『オ! 居ったな、高安平四郎』

男女して、左右から駈け寄っても、平四郎は、腰かけている階段から、動こうともしなかった。

『待っていたのだ』

そう云って、底気味のわるい眼で――何っ方から先に刀の錆にするか――と舌なめずりして見較べるように、

『相思相愛、死ぬも生きるも、一蓮托生と、ふたりして追って来たな。――だが、こう見るところ、男の甚三郎には顫えが見える。長崎仕込みの軽薄才子――もし生きて添っても、その構えでは、末始終が心もとない』

『な、なにを云うぞ。この期になって、世囈い言を』