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ゆうがおのもん

夕顔の門

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《夕顔の門(ゆうがおのもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 頁

青空文庫

『知りません。父が貴方と婚約した事すら、わたしに黙ってしたのですから』

『いや、まあ聞け。武士として、頼むと、手をつかれる程、辛い事はない。其女はいつも口癖に、わしには愛がないように申すが、それは僻みというものだ。いちど自分の持った女――無智なら無智で不愍と思う――まして惣七殿が泣いて手をつかえた親心もある。きょう迄わしは、一度でも、其女を憎いとはしていない。飯櫃でも使い馴れる迄はクセのあるもの。わが妻と成しきる迄は、そのクセも抜こう、磨きもかけよう。――そう考えて努力して来たが、その大きな愛が其方にはまだ分らぬ』

『分りました。――そうです、わたくしなどは、どうせお飯櫃ぐらいにしか、貴方には考えられていないのですから』

『今に分る。もっと長く長く、わしと生活ているうちには』

『そんな辛抱はもう……。思うだけでも、身がふるえます』

『不幸が其女を誘惑するのだ。惣七殿の為にも、其女の為にも、わしという者は、大樹の陰ではないか。――逃げた鷹はぜひもないが、不幸になる人を見のがすわけには行かぬ』

『そんな事を云って、又わたくしの気を鈍らせ、真綿で首を縊るように、じりじりと、復讐なさるので御座いましょう』