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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《夕顔の門(ゆうがおのもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 頁
二
『では、その怪我人のお方を』
『別府の温泉まで、療治にお連れするんです』
『旦那さまのお耳へは』
『何もかも御存じなのだから、云うには及びません。――もうすぐにお寝みになるだろうし』
『……ほんに』と、由松は庭木を透かして、
『いつのまにか、お部屋の明りが消えております』
『じゃあ、今のうちに、はやく駕を頼んでおいておくれ。間際になって、無いと困りますから』
由松は、何処かへ、出て行った。
二
もう九刻(十二時)過ぎ――
海騒もない、静かな夜半だった。
沖の水平線だけが、月光色の帯のように、ぎらぎら明るかった。
『御新造さま。……参りました』
『駕?』
『へい』
『旦那さまは』
『あれなり、ずっと、お寝みのようでございますが』
『……じゃあ、ちょっと、手をかしておくれ。……そっと、そっと抱いて上げないと』
『かなり深傷の御様子でございますな』
『でも、すっかり洗って晒布巻をしましたから、だいぶお顔が快くなって来ました』
由松は、何気なく、傷負を抱き起して、自分の肩に負いかけたが、ふとその浪人の顔を見て――
『あっ、この男は』
と、思わず口走った。
お市は、顔を反向けながら、
『お前も、この人の顔を、見知っているのかえ』